WATCH 解説

新生HYTが創上げる時計の新たな可能性 〜製品構造編〜

前回までのおさらい

HYTの創業者であるヴィンセント・ペリアール。自身の夢である「誰も見たことのない時計作り」への道を技術者達の持つ悩みから見出します。時計にとって大敵である水(液体)をあえて利用しそれによって時間を表現する、流体機械式時計の完成のためにヴィンセントの苦悩する日々が始まります。

 

 

まずヴィンセントは液体と機械式時計を融合させるために、どのような構造にしなければならないか考えました。しかし多くの時計技師を悩ませてきた液体と機械式時計を近づける、ましてやそれらを組み合わせて時刻を表現するなど誰も考えたことがありません。

 

内部による部品の接触、湿気による不具合...etc

問題を挙げ出すと山のように出てくる中、ヴィンセントが考案したのは機械式のムーブメントと液体を制御するためのモジュール、それぞれの異なるエンジンを時計の内部で一つにするという方法でした。

 

しかしこの構造の実現にはとてつもない問題があります。この内部パーツを作成する会社の存在です。時計大国スイスには多くのムーブメントメーカーが存在しております。しかし、この液体で表現した時刻と機械式ムーブメントで表現した時刻を連結・連動させるメーカーなど未だかつてありません。恐らく想像もしたことが無かったのではないかと思います。

 

それに必要となるのはこの機械式ムーブメントだけではありません。肝心とも言える液体モジュールの完成こそがこのブランドを成功させるための重要なピース。専用の機械式のムーブメントならまだしも、この液体モジュールに関してはまさに誰も取り組んだことのない茨の道だったのです。

 

様々な液体による時刻の表現方法が考案される中、どれも製品として有効な手段が確立されることなく時間ばかりが経過していく日々が続きます。

 

...よくある机上の空論...

 

そう片付けられてこのプロジェクトも終わってしまうのだろうと誰もが感じたその時、PRECIFLEX(プレシフレックス)という会社が遂にHYTの核となる液体モジュールの製作に成功します。全く聞いたことのないメーカーだと業界内で感じた方もいらっしゃるかもしれませんが無理もありません。

 

彼らは、インスリンの注射器などを製造する医療機器のメーカーなのです。

時計業界とは全く無名の医療機器メーカーがどのようにして液体モジュールを完成させたのでしょうか。次回はその実態に迫ります。また見てくださいね。



HYT / エイチワイティー

2012年、スイスのヌーシャテルを拠点として設立された時計ブランド。液体を用いて機械式時計で時刻を表示するという途方もないアイデアを具現化するため、時計・医療・化学・物理学・宇宙工学等の様々な分野のプロフェッショナルが集結し、業界初の液体と機械式時計を融合させたリストウォッチは誕生しました。

この記事の監修者

山口 喬之(やまぐち たかゆき) 役職: セールススタッフ

大学時代に機械式時計の芸術性に心を打たれ、時計業界で働くことを決心。スタッフとしてだけでなく一時計ファンとしての対応を心がけている。

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